制度解説
全東信の未入金は貸倒処理できる?貸倒引当金と貸倒損失の基本
2026.07.13
全東信からカード売上の立替入金を受けられず未入金が残った店舗向けに、税務上の貸倒処理の基本的な考え方を、国税庁の公表資料にもとづいて整理します。実際に処理できるか、いつ・いくら計上できるかは店舗ごとの事実関係と決算のタイミングで変わります。判断を代わりに下すものではなく、税理士・税務署へ相談するための下準備として読んでください(2026年7月13日時点)。
貸倒引当金
将来の貸倒れに備え、一定額を見込み計上
備える段階貸倒損失
要件を確認し、回収できない金額を処理
確定後の段階貸倒処理には2つの制度がある
回収できない売掛金や未収入金の扱いは、大きく2つに分かれます。混同されやすいので先に区別します。
- 貸倒引当金:回収不能がまだ確定していない段階で、将来の貸倒れに備えてあらかじめ一定額を損金に見込み計上する制度。
- 貸倒損失:回収できないことが実際に確定した段階で、その金額を損金として処理するもの。
破産手続は、開始決定から換価、配当、終結・廃止まで時間をかけて進みます。そのため「まず引当金で備え、回収不能が確定した時点で損失に振り替える」流れが一般的です。全東信の破産手続開始決定は2026年7月6日(大阪地方裁判所)ですが、配当がいくらになるか、いつ確定するかは現時点でわかっていません。
ケン「ナオさん、未入金が戻ってこうへんのやったら、その分そのまま経費にできるんちゃうん?そしたら税金も軽なるやろ」
ナオ「気持ちは分かります。ただ、税務では『まだ戻るか分からない段階』と『戻らないと確定した段階』を分けて扱うんです。前者が引当金、後者が損失。全東信はいま配当がいくらになるか未定なので、いきなり全額を損失に、とはいかないことが多いんです」
ケン「じゃあ今できるのは引当金のほうか。それやと何割まで見られるん?」
ナオ「破産手続開始の申立てがある場合、回収が見込まれる部分などを除いた残りの50%を上限に引き当てられる、という整理があります。ただ、これは制度の一般論です。実際に自店で何円になるかの当てはめは、税理士さんに確認していただく領域なんです」
ケン「そこは餅は餅屋やな。数字の当てはめは任せるわ」
ナオ「はい。私たちは考え方と資料の準備までお手伝いして、計上の判断はご担当の税理士さんへ。この線引きが大事です」
ケン「じゃあ俺は今、何を用意しといたらええん?税理士さんに手ぶらで行っても話にならんやろ」
ナオ「いい質問です。まず未入金額を日付別に集計した一覧と、最後の入金日が分かる通帳。それに契約書と決算書があれば、税理士さんが要件に当てはめやすくなります」
ケン「集計か。返金とか取消しが混ざっとるやつは、どう分けたらええんやろ」
ナオ「そこは分けて把握するのが肝心です。純粋に入ってこなかった額と、取消・返金の分をごちゃ混ぜにすると、対象になる債権の額がぶれてしまいますから」
破産手続開始で「個別評価の貸倒引当金」の対象になり得る
法人税基本通達では、貸倒引当金を「個別評価金銭債権」と「一括評価金銭債権」に分けて計算するとされています。このうち個別評価は、回収に懸念が生じた特定の取引先の債権を個別に評価して引き当てるものです。
個別評価の形式基準の一つに、債務者について破産手続開始の申立て(会社更生・民事再生の開始申立て等を含む)があった場合が挙げられ、その繰入限度額は次のように計算するとされています。
(対象の個別評価金銭債権の額 − 実質的に債権とみられない部分 − 担保権の実行等で回収が見込まれる金額 − 保証等で弁済が見込まれる金額)× 50%
つまり全東信への未入金を持つ事業者は、回収が見込まれる部分などを除いた残りの50%を上限に引き当てられる余地がある、という整理です。ただし適用の可否は、事業年度末に要件を満たすか、対象債権の範囲、回収見込額の見方といった個別判断に左右されます。数字の当てはめは税理士に確認してください。
回収不能が確定したら「貸倒損失」へ
引当金は「備え」であり損失そのものではありません。実際に回収できないことが確定した段階では貸倒損失として処理する場面が出ます。国税庁のタックスアンサーは、損金算入できる場合を大きく3つに整理しています。
- 会社更生法・民事再生法などの法令の手続で切り捨てられた金額。
- 債務者の資産状況・支払能力等から全額が回収できないことが明らかになったとき(担保があるときは処分後)に、損金経理で処理する場合。
- 継続的な取引停止後1年以上経過したときなど、売掛債権を形式的に処理できる場合。
どの時点で「回収不能が確定した」と見るかは配当の見込みや手続の進行によって変わるため、開始決定が出たこと自体で全額を直ちに貸倒損失にできるわけではありません。
引当金と損失の違いを一覧で
| 観点 | 貸倒引当金(個別評価) | 貸倒損失 |
|---|---|---|
| 使う場面 | 回収不能がまだ確定していない段階の「備え」 | 回収できないことが確定した段階の「処理」 |
| 破産手続との関係 | 破産手続開始の申立て等が形式基準の一つ | 切捨て確定・全額回収不能が明らかになった等 |
| 金額の目安 | 回収見込額等を除いた残りの50%が上限 | 回収できないと確定した額 |
| 最終判断 | 要件充足・対象範囲・計上時期は税理士・税務署へ確認 | |
当てはめるときの注意
- 未入金額をまず確定させる:引当金も損失も対象債権の額が出発点です。契約書・売上明細・入金履歴を突き合わせ、最後の入金日以降のいくらが未回収かを集計します(未入金額の集計と重なります)。
- 相殺・返金・チャージバックを分ける:立替入金では取消や返金と未入金が混ざるため、純粋な未回収額を分けて把握します。
- 決算期との関係で計上時期が変わる:事業年度末が開始決定の後か前かで、その期に引き当てられるかが変わります。損金にできると決めつけず、要件・回収見込額・計上時期は個別に確認してください。
よくある誤解
- 誤解:破産開始が出たので未入金の全額を今期の損失にできる → 開始決定だけで全額を直ちに貸倒損失にはできません。配当や手続の進行によって、確定の時期が変わります。
- 誤解:引当金は自動で50%まで計上できる → 50%は上限の目安で、回収見込額などを差し引いた後の金額に対するものです。要件を満たすかは事業年度末の個別判断です。
- 誤解:処理の可否まで支援機関が判断してくれる → 資料の整理や考え方の説明までは一緒にできますが、計上の可否・金額・時期の判断は税理士・税務署の領域です。
よくある質問
Q. 個人事業で青色申告ですが、同じように考えられますか。
法人と個人で制度の細部は異なります。ここでの説明は考え方の枠組みで、具体的な適用は申告区分に応じて税理士に確認してください。
Q. まず税理士に何を持って行けばいいですか。
下の「準備しておく資料」の一式です。未入金額を日付別に集計した一覧と、最後の入金日が分かる通帳があると、話が早く進みます。
準備しておく資料
- 全東信との加盟店契約書・規約
- カード売上の明細、管理画面のCSV、伝票
- 口座の入金履歴(最後の入金日がわかるもの)
- 未入金額を日付別に集計した一覧
- 破産管財人から届いた通知や、債権届出の控え
- 直近の決算書・試算表、決算月がわかる資料
次に読む
出典・参考
- 国税庁 タックスアンサー No.5320 貸倒損失として処理できる場合(確認日 2026-07-13)
- 国税庁 タックスアンサー No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定(確認日 2026-07-13)
- 国税庁 法人税基本通達 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金(確認日 2026-07-13)
制度や取扱いは改正・運用変更があり得るため、処理を行う時点で国税庁の最新情報を確認してください。個別の判断は、管財人・裁判所・金融機関・税理士など担当機関・専門家へ確認してください。
